このブログでは HR/HMバンドの最高傑作アルバムを、読者の皆さんの投票で決定しようとディスコグラフィを兼ねてまとめています。
「そんであんたはどれなのよ?」と言うことで、私(HARD ROCK 大好き)の ALCATRAZZ 最高傑作をレビューさせていただきます。
ALCATRAZZ / NO PAROLE FROM ROCK’N’ROLL レビュー
HR/HMギターの歴史が塗り替えられた衝撃の名盤
ALCATRAZZ は1983年にヴォーカルのグラハム・ボネットを中心に結成。
本作デビューアルバム「NO PAROLE FROM ROCK’N’ROLL」を同年にリリースします。
ALCATRAZZの結成にあたり、グラハム・ボネットはかつて在籍の RAINBOW での盟友「リッチー・ブラックモア」的なギタリストの擁立を模索。
LAメタルバンド STEELER で驚異的なギタープレイを披露していたスウェーデン出身のイングヴェイ・マルムスティーンを獲得しました。
(後にイングヴェイ・マルムスティーンがバンドを脱退後は、後任にこれまたスーパーギタリストのスティーヴ・ヴァイが参加。)
(20世紀の2大巨星ギタリストを輩出したスーパーバンドと言えますね。)
ベースとキーボードには元 NEW ENGLAND のゲイリー・シェア(ベース)とジミー・ウォルドー(キーボード)を招聘。
ドラムスのみがなかなか決まらなかったようですが、最終的には元Alice Cooper Band のヤン・ウヴェナに落ち着きました。
そして迎えた歴史的瞬間の1983年10月15日。
大袈裟ではなく、まさに「その時歴史が動いた」って感じですね。
これまでのHR/HMシーンにおいて存在し得なかった、聴いたことのないギタープレイを我々は耳にすることとなりました。
まるで絶対に脱出不可能とされる ALCATRAZZ刑務所の重たい鉄格子がこじ開けられたかのように、これまでのHR/HMギターの概念が塗り替えられた瞬間です…。
当時購入したLPレコードの伊藤政則氏によるライナーノーツにも熱い名文句が記されていますね。
「泣くがいい。声をあげて泣くがいい。」
「その涙は新しい時代を呼ぶ水晶となって、ALCATRAZZ の許に届くだろう。」
「この感動こそがロック新時代突入の証しなのだから…。」
イングヴェイ・マルムスティーン ついに表舞台に登場
1小節にいったい何個の音符が入っているんだろう???。
楽譜を遠くから見たら恐らく「真っ黒」に塗りつぶされたようにしか見えないであろう驚異の鬼速弾きギター。
初めて聴いた時はまさに度肝を抜かれました。
世界中のHR/HMファン、とりわけギターを志す者にとっては開いた口が塞がらない状態となったことでしょう。
LAバンド STEELER 時代のプレイにおいて既にそのテクニックには定評があったようです。
その驚異的な速弾きテクニックと音楽的センスのポテンシャルを目ざとく見抜き、自身のバンドALCATRAZZへの参加に導いたグラハム・ボネット。
イングヴェイ・マルムスティーンを一本釣りしてメジャーシーンに引き上げたその功績は讃えられるべきですね。
この2人の才能の合体は、その後のHR/HMの歴史そのものにあまりに大きな影響を与えたと言えるでしょう。
前述のアルバムラーナーノーツに伊藤政則氏はこう記しています。
「かつてオジー・オズボーンがランディ・ローズを発掘したように、グラハム・ボネットとイングヴェイの歯車の組み合わせが歩みをはじめた。」
「いつまでもリッチーブラックモアやマイケル・シェンカーの時代ではない。」
「時代は流れ、世代は変わり、ロック・シーンも移っていく。当然起こりくる主役交代の時代。」
「イングヴェイ=新しい救世主の出現。」
単なる速弾きだけではない極上メロディアスな楽曲群
イングヴェイ・マルムスティーンがメジャーシーンに登場してからというもの、猫も杓子も状態で速弾き戦国時代に突入していくこととなりますが…。
ただ単に早く弾くだけで楽曲がしょうもなかったり、意味不明な自己陶酔速弾きだったりという輩も多くて辟易しました。
その点、本作に収められた楽曲群は北欧の哀愁泣きメロを過積載気味に搭載。
全体的に欧州的な湿気をまといながら「陰と陽」「静と動」のコントラストをつけながら構成されています。
「陰」「静」といったイメージの楽曲であっても、知らぬ間に楽曲の魅力に引き寄せられているような強力な磁力を秘めてますね。
救世主イングヴェイ・マルムスティーンのギター。
青筋王子ことグラハム・ボネットの聴いているこちらの方が過呼吸となりそうな絶叫ヴォーカル。
両者の才能の合体で仕上げられた極上のメロディアス・ハードロックの名盤です。
バンドメンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル : グラハム・ボネット
- ギター : イングヴェイ・マルムスティーン
- ベース : ゲイリー・シェア
- ドラムス : ヤン・ウヴェナ
- キーボード : ジミー・ウォルドー
収録曲
- Island in the Sun -3:56
- General Hospital -4:50
- Jet to Jet -4:27
- Hiroshima Mon Amour -4:01
- Kree Nakoorie -6:10
- Incubus -1:24
- Too Young to Die, Too Drunk to Live -4:21
- Big Foot -4:07
- Starcarr Lane -3:54
- Suffer Me -4:18
おすすめ楽曲
Island in the Sun
オープニングはデビューアルバムに相応しい新たな船出をイメージさせるようなポップチューン。
ポップさの中にも哀愁を感じさせるヴォーカルのメロディラインと、イングヴェイ独特のギターのバッキングが印象的です。
そして何と言っても圧巻はギターソロ。
当時のMVではイングヴェイは白いフライングVだったり、左利き用のストラトだったりを弾いていて、肝心のソロを弾いているところがあまり映っていませんでした。
その為、私と友人との間では「本当に弾いてんのか?こいつ」などと疑惑の眼も向けてしまう程に驚愕の信じられない速弾きプレイだったのでした...。
Jet to Jet
既にアルバム2曲目までを聴き終えた時点で想像を遥かに上回る速弾き攻撃を喰らい、ダウン寸前でふらふらの足にきている状態…。
3曲目で完全にとどめを刺されノック・アウトされました…。
「いやいや、これは絶対回転数上げているでしょ?」と本気で疑いたくなるギターソロ。
あり得ないスピードと音数の多さに、思わずヘッドフォンで真剣に聴き入ってしまったのを思い出します。
そして、ただ単純な速さだけではないクラシックに裏付けられたフレージングは、哀愁を漂わせながら前代未聞の境地に足を踏み入れた感がありました。
対して、グラハム・ボネットのヴォーカルは、相変わらずの「絶対ライブでこの高音は出ないでしょ」状態。
完全にリミッターを超えたレッドゾーンの音域をベタ踏み状態で奮闘しています。
Hiroshima Mon Amour
題材が題材なだけに一度聴いたらもう一生忘れられないインパクトのイントロソロとリフで始まる歴史的名曲。
凄い、凄過ぎますね…。
中盤のギターソロでも再び入魂のフレージングが炸裂。
全身が鳥肌状態になっちゃいそうです。
「被爆地 広島」という全人類にとっても重たい題材に相応しい、魂のこもったプレイとヴォーカル…。
身体の奥深くから激しく感情を揺さぶられるような感覚に見舞われました。
まさに伊藤政則氏の「泣くがいい。」の名言が体感できるような楽曲。
哀愁の泣きメロにただひれ伏すしかありません…。
Too Young to Die, Too Drunk to Live
正統派の王道をいくギターリフ。
かつてのレインボーを髣髴とさせるような楽曲か…?。
と思いきや、やはりそうは簡単には問屋が卸しませんでした。
クラシカルな骨格と斬新な展開を聴かせるメロディ。
間を埋める通常であれば副菜おかず的なオブリガードでさえも、メイン・ディッシュ級の贅沢なギターフレーズとして皿まで舐めたくなる感じ…。
まさにHR/HM新時代の幕開けを象徴するかのような名曲ですね。
Starcarr Lane
本作の中で個人的に一番好きな楽曲です。
イントロからいきなり怒涛のように押し寄せる泣きメロの洪水。
哀愁のメロディラインとキャッチーなサビ、そして圧巻のギターソロ。
特にギターソロは私がこれまでに聴いてきたHR/HM楽曲の中でも屈指の完成度を誇っています。
断言します。
泣きます。
声をあげて泣きます。
このソロは涙なしには聴けません...。
<ご参考>アルカトラス島はサンフランシスコ湾に浮かぶ小島
最後にご参考までにアルカトラス島についてちょっと記しておきましょう。
アルカトラス島はアメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ湾内に浮かぶ小島です。
1963年まで刑務所として使用され、映画の舞台となったことでも有名ですね。
今ではレクリエーションの地域として一般観光客にも公開されているようです。
一方、我が日本にも似たような島がありますね。
そう、「軍艦島」です。
軍艦島はかつては海底炭鉱の掘削によって栄え、1960年代には東京以上の人口密度を有していたと言われています。
こちらは現在は無人島となっており、ちょっと不気味で異様な様相となっていますね。
まとめ
イングヴェイ・マルムスティーンの才能を見出したグラハム・ボネットの卓越した審美眼。
千載一遇のチャンスをしっかりとものにして名声を我が物とし、即座に自身のバンド結成に舵を切ったイングヴェイ・マルムスティーンのしたたかさ。
いずれにしても、本作が全く新しいHR/HM時代の幕開け、明確なターニングポイントとなるアルバムとなったことは間違いの無い事実ですね。
クサい常套句で恐縮ですが、その歴史的瞬間にリアルタイムで立ち会えたことに感謝したいです。
それにしても、早々にALCATRAZZを脱退して自らのバンド「Rising Force」を結成に動いたイングヴェイ・マルムスティーンには正直少しガッカリでした。
「若くして富と名声を手にした者に訪れる思わぬ転落の道筋」とまでは言いませんが…。
その後交通事故で右手に後遺症を負ってしまう等、その後のイングヴェイ・マルムスティーンはあまり運には恵まれなかった印象です。
1991年には同郷のヴォーカリスト「ERIKA」と結婚するも、僅か1年という短い期間で離婚してしまいました。
これ程にメロディアスかつテクニカルに自由に弾きまくれる環境下であったならば、ALCATRAZZでもう2、3枚アルバムを残してくれていればなぁーと残念でなりません。
逆に言えば、ALCATRAZZにおけるイングヴェイ・マルムスティーンの唯一無二の存在となったこのアルバムの存在価値が計り知れないものであることの証明とも言えますが...。